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【第4回/全16回 文字数:2930字】

太陽を反射する:月の制作と撮影

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クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』(14)で宇宙空間を見事に再現したクロウリーだが、本作のデザインでは最大の難問に直面した。クロウリーは振り返る。「月に行ったのは今回が初めてだ。脚本を読んだ時から、プロダクションデザインは困難な作業だと分かっていた。X-15、ジェミニ号、アポロ号を作り上げ、月面着陸も行う。でも無邪気に『問題ない、やれる』と思っていたんだ。それ以外にも、主人公たちの住居やNASAの施設など、作るべきものはたくさんあって、全てをうまくつなぎ合わせる必要があったが、対処できると思ったよ。ただ、月のセットについては考えないようにしていた。どうやってそれらしいセットを作ればいいのか、検討もつかなかったから。すぐに答えは出なかったけれど、採石場かセメントが必要だろうとは予測していた。月のスケール感を表現できる広大な土地が必要なこともね。だから採石場がベストだと思ったが、月面を表現するには滅多にないグレーの採石場でなければならなかった。だけど、時にはロケーションがあっさり問題を解決してくれることもあって、幸運にもアトランタにはグレーの採石場が存在した。アトランタ南部のストックブリッジにあるバルカン採石場に行きつき、セットを作るために掘ることも許可してくれた」

チャゼルにとっては、完璧な月面風景を探すことは骨の折れる作業だった。「セットで月のシーンを撮影するのではなく、夜間に外で撮影する案が出た。そうすれば、大型の撮影用ライトで太陽光を作ることができる。そこでアトランタ近辺で候補地を探したが、バルカン採石場に行きつくまで少し時間がかかったよ。かなりの数の採石場を見学したが、広さが足りなかったり、地面が平らでなかったりした。でも最終的に理想的な場所が見つかって、撮影に合わせて掘ることもできた」

チャゼルが撮影監督に指名したのは『ラ・ラ・ランド』でタッグを組んだリヌス・サンドグレンだった。当然のことながら、広大な月の表面に照明を当てることは非常に困難な課題だったとサンドグレンは語る。「ネイサンは採石場に月面のセットをデザインした。これまで見たことがないほど巨大なセットだったよ。そんな広大な空間を隅まで照らす照明が必要で、通常は照明の数を増やすが、太陽としての光源は1つしか要らないし、ライトを増やして影が増えるのも困る。全体を照らせる非常に強力な照明が1つだけ必要だった」
唯一の解決策は、この地球上で最も強力な照明を見つけることだった。「『100Kソフトサン』という10 万ワットの照明を開発したデイヴィッド・プリングルに連絡を取って、彼に20 万ワットの照明を作るのを手伝ってほしいと打診したんだ。この照明のおかげで、採石場での月面シーンの撮影が可能になった」とサンドグレンは説明する。

広大な宇宙と宇宙飛行士たちが乗っていた狭い宇宙船との対比は著しいものだった。製作総指揮のメリムズは説明する。「アポロ11号は直径10フィート(約3メートル)ほどで、3人の宇宙飛行士はその中で1週間以上を過ごした。非常に閉塞的でとにかく狭い空間だ。デイミアンはいかに辛い宇宙旅行だったかを表現したがった。バズとニールが月面に降り立った時、そこには無限の空間が広がっていて、宇宙船と月面の極端なコントラストが顕著に表れているんだ。2人が月面に立つシーンは、IMAXの65ミリフィルムで撮影した。映画撮影で使用されるフィルムの中では最大のフォーマットだ。これによって、観客を月面にいるかのような気持ちにさせることができる」

月面のセットについて、サンドグレンは語る。「まるで死者の国みたいだった。今まで見たことがないような風景だ。人間ドラマに迫ったシーンは16ミリフィルムで撮影して、月のセットは現実世界よりもかなりシュールな空間だったから、IMAXで撮影することにした。フィルムの解像度がすごく高いから、細部まで鮮明に表現することができる」

製作のボーウェンはサンドグレンのカメラ選択に敬意を表する。「アームストロングがアポロ11号に乗り込むシーンは16ミリで撮影されているから、手ぶれしているのが分かる。当事者たちの感情が見ている観客に伝わると思うよ。観る人に実際に同じ空間にいるかのようなリアルな体験を提供できれば、この偉大な物語が世に知れ渡ることになる」

興味深いのは、サンドグレンとチャゼルが月のシークエンスで使用したレンズは、当時アームストロングとオルドリンが月面で例の悪名高いスチル写真を撮影した時に使用したレンズと同じだった。「2人は中判カメラのハッセルブラッドと6×6センチのブローニーフィルムを使用した。私たちが使用したのと同じだ」

世界的に有名な月面着陸のシーンを再現するため、製作チームはアームストロングたちが月で撮影した写真を何度も検証した。実際の写真の通りに正確に再現することにこだわったのだ。また、チームは太陽の角度も忠実に再現している。

月のシークエンスが撮影されたのは撮影期間の最後の数週間だったため、他のシーンはほぼ撮り終えていた。「月のシークエンスを撮影した時には、もう終わりが近づいていた。その時には、登場人物たちと同じような気持ちになった。『全てはこの瞬間のためだった』という気持ちにね」とチャゼルは言う。
有名な月面への第一歩のシーンの撮影について、チャゼルは次のように語る。「できるだけ史実に忠実に描こうとしたし、当時の映像の興奮と感動を再現するために細部にまでこだわったけど、本作独特のユニークな要素も付け加えた。ただの再現映像を作るのではなく、そこに感情を込めたかったんだ」

ゴッドフリーにとっては、感動的な旅を構築することが全てだった。作品の登場人物にとってだけでなく、観客にとっても月面着陸の成功が感動的な出来事になるからだ。「不安と緊張感を描きたかった。ニールと仲間の宇宙飛行士たちがいかに危険な状況に置かれていたかをね。月着陸船が着陸した瞬間、私たちは緊張から解放される」

緊張から解放されたのは、俳優にとっても同じだったようだ。「人類初の月面歩行を成し遂げた時のニールとバズと管制室の実際のやり取りの録音音声を聞きながら、あのシーンを撮影した。ニールと同じ体験をするのはすごくシュールだったよ。それに、POVスタイル(主観ショット)を採用してニールの視点から撮影しているから、見ている観客とも彼の体験を共有することができる」とゴズリングは説明する。

1月中旬にジョージア州で野外撮影を行うのは、気候の面で大きな賭けだった。実際、月のセットの気温は夜になると華氏17度(摂氏約マイナス8 度)まで下がった。
チャゼルは語る。「私たちの月はかなり寒かった。でも実際の月での気温も超高温から超低温の間で変化しているから、これくらいの厳しさがあった方が良かったと思う」

「突然雪が降り出した時には、一旦撮影を中断して数日間はセットでの撮影に切り替えるしかなかった。でもロケ地に戻るとすっかり天気が回復していて、風も強くなく、旗もそのまま立っていた。まるで本当に月で撮影しているかのようだった」とサンドグレンは笑う。