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【第5回/全16回 文字数:3115字】

アームストロングを演じる:ゴズリングの起用

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『ラ・ラ・ランド』で一緒に仕事をしたゴズリングとチャゼルだが、『ファースト・マン』のプリプロと撮影、ポスプロに至るまでのコラボは別次元だったようだ。「ライアンと私の関係は単なる俳優と監督の間柄を超えていた。本作がドキュメンタリーのように感じられる理由はそこだ。この作品の話を初めてライアンとした時、私は『ミッション遂行の映画』だと言った。一方、彼は喪失の物語だと解釈していた」チャゼルは言う。
撮影前に2週間リハーサルが行われたが、それは通常のリハーサルではなく、監督と俳優が一丸となって数々のシーンを即興で演じるものだった。チャゼルはこのリハーサルのシークエンスをカメラに収めたが、複数のシーンを本編に採用した。
チャゼルはゴズリングのクリエイティブな姿勢に感銘を受けたと話す。「ライアンが『Lunar Rhapsody』を見つけてきたんだ。テルミンでの演奏曲で、ニールはこの曲が大好きでアポロ11号のミッションの際にも流していた。しかも、ニールが大学時代に作ったミュージカル『Egelloc』や、地球の大気圏について語ったインタビューまで見つけてきたよ。後者はジョシュがニールのスピーチを書く上でのベースになった」
製作陣は、アームストロングが持つ高い集中力と静かな凶暴性をゴズリングがいとも簡単そうに表現したことに驚いたと言う。チャゼルは説明する。「ニールの控えめで地味な性格が印象的だった。典型的なカウボーイでも、早口のパイロットでもない。口数が少なくて、黙って部屋の隅に座っているけど、瞬時にあらゆる物事を査定することができる、一番頭のいいタイプの人間なんだ」
『ラ・ラ・ランド』を経て、チャゼルは特に控えめな演技ができる技量を含め、ゴズリングの演技力の幅広さを知った。チャゼルは続ける。「ニールはいつも自分に特別な要素はないと主張していた。周囲の状況によって偶然月に立った最初の人間になったと言っていた。ニールにはそういった正常さがあったし、ライアンの演技はすごくさりげなく、彼の性格を表現していたよ」

「ライアン以上にニールを演じられる俳優は思いつかない」と原作者のハンセンは賛辞を贈る。「彼にはニールと同じように内省的で静かで控えめなところがある。それに彼自身の解釈でアームストロング像を描いて、細部にまで気を配らないと分からないようなニールの特徴を見事に表現している」
また、ハンセンは役作りのために有益な情報をゴズリングに提供した。「ニールの妹ジューンに会うように勧めた。ニールの性格を理解する上で、彼女の存在は非常に重要だと説明したんだ。特に、幼い娘の死が彼に与えた影響を理解するためにね」とハンセンは説明する。「ライアンは農家を訪れ、ジューンとニールの幼なじみと面会した。私がニールにインタビューをしたのと同じ家だ。彼はジューンたちから話を聞き、ニールの息子や他の家族にも会った。完全に役に入り込んでいたよ。十分な役作りと素晴らしい演技力でニール・アームストロングを再現したんだ」

ゴズリングはこう語る。「子供の頃、月について初めて学んだ時、ニール・アームストロングという人物が月面を初めて歩いたという事実も一緒に知った。ニールは月と同義語のような存在だったけど、ハンセンが書いた伝記を読んで初めて、彼のことをほとんど知らなかったことに気づいた。歴史を変えたミッション遂行の前や最中にニールとジャネットが悲痛な喪失を経験していたことや、いかに危険なミッションだったかを理解していなかったんだ。当時の宇宙船はすごく狭苦しくて壊れやすく、現代とは比べ物にならないほど当時の技術は原始的だった」
チャゼルと同様に、ゴズリングもアームストロングや仲間の飛行士が置かれた過酷な状況や、未曾有の偉業を達成するための絶え間ない努力といった要素に惹かれたと言う。「この作品のユニークな点は、極端な要素が徹底的に極端だというところだ。アームストロングの私生活と彼が挑む宇宙は全く正反対のもので、これ以上極端な例は見たことがないよ。当時の宇宙飛行士たちは科学的知識を駆使して宇宙の謎の解明に挑む一方で、家庭ではごみ出しをしたり庭の芝生を刈ったりしていたんだ」

ゴズリングは徹底的な役作りで知られる俳優だ。アカデミー賞®主演男優賞候補になった『ラ・ラ・ランド』ではたった3カ月でピアノをマスターし、『きみに読む物語』(04)では役に合わせて家具作りも学んだ。
ゴズリングの演技には特別な何かがあるとボーウェンは称賛している。「ライアンの演技には人間らしさがある。感傷ではなくて心情を理解しているんだ。感情的な演技で圧倒しようとする俳優が多い中で、さじ加減を理解して見る者の興味を引く演技ができる。素晴らしい才能だ」
現場のスタッフ全員がゴズリングの演技に対する姿勢に敬意を抱いていた。ジェミニ計画とアポロ計画で宇宙飛行士のトレーナーを務めたフランク・ヒューズは、1960年代にアームストロングを訓練したのと同じ方法でゴズリングを指導し、こう称賛する。「ライアンは演技に全身全霊を傾けていて、本当に感心したよ。彼はジェミニ号のコントロールパネルをじっくり観察し、アポロ号でも全てのスイッチの目的を理解しようとしていた。コックピットの中でも状況を把握しようと全体を観察していたんだ」

一方のゴズリングは、数々の協力者の存在無しにアームストロングを演じることは不可能だったと告白する。「他界される前にジャネットにお会いできて光栄だったし、ニールの息子のリックとマークからも話を聞くことができた。ニールの生家であるオハイオ州ウォパコネタの農場ではニールの妹ジューンにも面会できた。ニール・アームストロング航空宇宙博物館や、NASAのケープ・カナベラルとヒューストンの基地の職員もすごく協力的だった。撮影現場には毎日専門家がいて、細かな助言をしてくれたんだ。ハンセンにはいつでも連絡できる状態だったし、緻密なリサーチに基づいた700ページを超える彼の著書「ファースト・マン ニール・アームストロングの人生」も常に手元にあった。こんなにも多くの人に助けられ、熱意を持ってサポートしてもらえたのは初めての経験だったよ」
アームストロングや仲間の宇宙飛行士に対するゴズリングの敬意は、撮影に顕著に表れている。「役作りでまず必要だと予測していたのは飛行訓練だった。ニールは車の免許を取る前に航空機を操縦していて、彼の人物像に欠かせない要素だと思ったから、まずそこから始めることになるだろうと思ったんだ。でもトレーニングのある段階で、航空機をストール(失速)状態にするよう指示されて戸惑ったよ。最悪の事態だった。その時、なぜニールが世界有数の名パイロットで、自分はそうでないかを痛感したね。他の宇宙飛行士と同様、ニールもテストパイロットからキャリアをスタートさせた。今まで一度も空を飛んだことがない航空機に乗り込み、航空技術の発展のために限界点まで飛行させて欠陥を見つけるなんて、本当に限られた人間だけだ」
現場でのゴズリングの最大のファンは、ニールの妻ジャネットを演じたクレア・フォイだった。「ライアンは優しさの象徴みたいな人よ。努力してそうなったわけじゃなく、生まれつき好感が持てる人ね。そこはニールと同じね。ニールは決して社交嫌いでも無礼でもなかったと思うし、平凡な人でもなかった。他の大勢の人のように無理して人に好かれようとしなかったし、気まずい沈黙を何とか解消しようともしなかった。ライアンは優しくて寛大で、すごく誠実な人。彼のそういった点が作品にも表れていると思うわ」