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【第8回/全16回 文字数:3426字】

NASAの全面協力:宇宙飛行士のブートキャンプ

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アポロ11号までのミッションとNASAに関するリサーチを徹底的に行ったチャゼルは、ケープ・カナベラルのケネディ宇宙センターとヒューストンのジョンソン宇宙センターでのオペレーションについて精通するまでになった。「素晴らしい経験だった。宇宙飛行士を演じる俳優全員にも直接体験してほしいと思った」

ゴッドフリーも付け加える。「宇宙飛行のための訓練は非常に視覚的な体験だ。NASAは製作に密接に関わり、場所を提供してくれただけでなく、スタッフも協力してくれたんだ」

製作のクラウスナーはこう語る。「宇宙飛行士を演じる俳優にとっての最大の課題は、長期間にわたる訓練を受けることなく、本物の宇宙飛行士と同等の自信や知識をもって演技をすることだった。中には目隠しをした状態でもミッションを実行できるようなスキルの高い宇宙飛行士もいた。数百とあるパネルの中で、どこにどのボタンがあるかを正確に把握しているんだ」

俳優の役作りと準備において、専門家の話を聞きシミュレーションを体験することは必要不可欠だったが、ゴズリング、クラーク、フュジット、エンブリー、ウィガム、シュレイバー、ハース、ストールはヒューストンのジョンソン宇宙センターとケープ・カナベラルのケネディ宇宙センターに赴き、宇宙飛行士のための訓練を受けた。
「NASAの職員はすごく熱心で、自分の仕事や宇宙事業における過去の実績に深い愛情を持っていた。演じる上で、そこに最も影響を受けたよ。月面着陸は歴史を変えた出来事だった。誇張でなく、NASAで会った職人全員がこの偉業について詳細まで知り尽くしていたんだ」とクラークは言う。

ジョンソン宇宙センターでは、キャストは過去と未来を網羅したNASAの舞台裏を体験することができた。宇宙飛行のための訓練、飛行制御、エンジニアリングをじかに経験することができたのだ。
月面車への搭乗なども体験して、脚本や撮影に現実味が増したという。クラウスナーは説明する。「無重力と月の重力のシミュレーションを体験した。宇宙飛行士がどこで仕事や生活をし、何を食べ、どんな訓練を受けたかを見学することができた。キャスト陣が役に成りきる上で不可欠な要素だった」

NASAへの訪問を終えたクラークは、宇宙計画は不可能ではなく、現実的なものだと理解したと語る。「NASAは想像とはほど遠いとても実用的な場所で、そこで働く職員は寛大で頭が良く、献身的な人ばかりだった。おかげで、宇宙計画の重要性を感じることができたよ」

キャスト陣がヒューストンを訪れた時、ジョンソン宇宙センターではちょうど「Destination Moon: The Apollo 11 Mission(月面着陸:アポロ11号のミッション)」と題されたアポロ11号の本物の司令船「コロンビア」を展示するイベントの準備中だった。1969年7月に人類初の月面着陸を成し遂げたアームストロングたちの実際の住居を見学した直後だったこともあり、キャストたちは有形の歴史遺産を目の当たりにして圧倒されていた。

キャストたちにとって特に興味深かったのは、反重力装置での訓練である。ハーネスを着けて真っすぐに立つことで、月面歩行をシミュレーションすることができるのだ。宇宙飛行士の訓練について、シュレイバーは次のように振り返る。「この役を得て、俳優になった理由を思い出した。それは、残りの人生をずっと子供のように過ごすためだ。ヒューストンとケープ・カナベラルにあるNASAの施設に行き、普通では入れない場所を見学して宇宙飛行士の訓練を受けるなんて、まさに幼少期の夢の実現だよ」
宇宙飛行士の訓練は人生で最高の経験だったとシュレイバーは断言する。「反重力を唯一リアルに体験できるのは、軽減重力研究計画に使われる「嘔吐彗星」と呼ばれる航空機に乗って引き起こし後の放物線上の飛行経路により無重力状態を経験することだ。宇宙に行く以外の方法で無重力を体験するにはこの方法しかない。僕たちは嘔吐彗星には乗れなかったけど、2種類のシミュレーション・プログラムに参加できただけでも素晴らしい経験だった」

ハースが続ける。「発射台に固定されたスペースシャトルの映像は何度も見ているが、現地で本物の宇宙船を見られたのは、最高だった」

チャンドラーは地上に横たわるサターンVロケットを見学し、100メートル以上その横を歩いたことで、実際にロケットに乗り込む感覚をつかむことができたと言う。「実践的な感触を与えてくれるような装置を間近でたくさん見物したり、触ったり、宇宙服に身を包んだことで、役に成りきることができた」

ストールは、他作品でのリサーチは仕事のように感じるが、本作では違ったと説明する。「リサーチで気が重くなる時もあるけど、今回は楽しかった。当時の技術や関係者の細かな部分まで掘り下げていくのは興味深い作業だったよ。僕は宇宙飛行が当たり前の時代に育ったけど、当時はまだ先駆的な計画で、ゼロから作り上げる必要があったんだ」

チャゼルは宇宙飛行士を演じるキャスト全員にNASAでの実地体験を推奨し、また彼らが演じるそれぞれの人物のYouTubeビデオを各自宛に送信した。これによってキャスト陣はイントネーションなどの特徴をつかむことができた。
更に、チャゼルからはお薦めの映画や本のリストも送られてきたという。リストには、マイケル・コリンズの自伝「Carrying the Fire」やディーク・スレイトンとマイケル・カサットによる伝記「Deke!」、そしてジェイムズ・ハンセンの「ファースト・マン ニール・アームストロングの人生」も含まれていた。チャゼルが推薦した映画は、『宇宙へのフロンティア』(88)、『Moonwalk One』(70・未)、『Mission Control: The Unsung Heroes of Apollo』(17・未)など多数だ。

「月面着陸に関する資料は膨大だから、デイミアンがリストにまとめてくれてありがたかった。僕が演じたバズは多くの本を執筆していたから、いくつかを読んで彼の意見を理解しようとした。ヒューストンのジョンソン宇宙センターは技術的な情報であふれていたし、宇宙飛行士や管制室のスタッフに関する逸話も聞くことができた。本作のストーリーを語る上で何が重要かを示してもらえたのは、役作りにおいて大きな助けになったよ」とストールは付け加える。
各ミッションを正確に再現すべく、チャゼルと製作陣は技術アドバイザーを撮影現場に呼び集めた。
技術アドバイザーのひとり、クリスチャン・ゲルツァーはLLTV(月面着陸訓練機)の全てのシーンでサポートしている。ゲルツァーはNASAアームストロング飛行研究センターのジェイコブス・テクノロジーの主任歴史学者である。X-15航空機のシーンでは、アメリカ空軍の元パイロットであるジョー・エングルが招集された。エングルはニール・アームストロングと共にX-15のテストパイロットに選ばれた先鋭12人のうちの1人である。

NASAの宇宙飛行訓練部門の責任者を務めていたフランク・ヒューズは、宇宙飛行士訓練や管制室、ジェミニ計画やアポロ11号のシーンで技術アドバイスをしている。当時、ヒューズはコンピューター・ガイダンス・ナビゲーション及び制御システムの専門家として勤務しており、アポロ11号の飛行士たちとも密接に仕事をしていた。
アル・ロッチフォードとロン・ウッズは宇宙服の専門家として携わった。ロッチフォードは有人地球周回飛行に成功したマーキュリー・アトラス6号のミッションの際、ジョン・グレン・ジュニアをサポートし、ウッズは宇宙服を着用してのアポロ11号飛行前訓練の際にマイク・コリンズをサポートした。アポロ15号の司令船操縦士(マイク・コリンズと同じ仕事を担当)を務めたアル・ウォードンは、アポロ11号ミッションのシーンでアドバイザーを担当した。また、NASAマーシャル宇宙飛行センターの映像監督兼編集者であるジェイムズ・ビルブリーは、アーカイブ映像の追跡と特定に尽力した。

プリプロ中、各アドバイザーはチャゼルや製作陣と密に連絡を取り、撮影にも立ち会っている。「当時の関係者たちが現場に来て、いろいろな話を共有してくれた。素晴らしい経験だったよ。真実を語るためには、自分の頭の中で物事をでっち上げることなんてできないからね」とチャンドラーは語る。